鋼材の表面に窒化処理や浸炭処理を施すことで、鋼材表面の機械的性質を向上させることができる。Crを含有する耐食性に優れたステンレス鋼は、耐摩耗性が劣るという問題がある。しかし、上記の表面処理方法を用いると、ステンレス鋼本来の耐食性に影響を及ぼす可能性がある。本研究では、フェライト系ステンレス鋼に高温窒素溶体化処理を施し、フェライト系ステンレス鋼の表面硬さと耐食性が高温窒素溶体化処理によって改善されたことを証明した。

マルテンサイト系ステンレス鋼は、オーステナイト系ステン レス鋼に比べて強度が高いが、耐食性は劣る。本研究では、マルテンサイト系ステンレス鋼を高温窒素固溶体で処理した。実験結果は以下の通りである。

耐食性に及ぼす高温窒素溶液処理の影響

試験方法

試験鋼は市販のマルテンサイト系ステンレス鋼SUS420J2である。試験鋼はφ25mm×8(mm)の半円筒状試料とした。800番のエメリーペーパーで試料表面を研磨した後、アセトンで脱脂洗浄した。工業用真空熱処理炉を用いて高温固溶体窒素処理を行う。処理方法は、炉内の雰囲気を窒素に置換した後、試料を1100℃まで加熱して保温し、窒素で冷却する。その後、試料に氷点下処理を施した。その後、160℃、400℃、450℃、500℃、550℃の焼戻し処理、850℃の焼鈍処理をそれぞれ行った。処理後の試料の断面について、マイクロビッカース硬さ測定を行い、断面の組織観察、X線回折試験、孔食電位測定を行った。また、比較のため、市販のSUS420J2圧延材を1035℃で焼入れ後、160℃で焼戻しを行い、焼入れ焼戻し材を作製した。

テスト結果

高温窒素固溶化処理後の 160℃調質材の断面硬さと組織を図 1 に示す。160℃焼戻し材の断面硬さの最高値は720HVで、硬さ保持深さは最大0.25mmであり、母材鋼より硬い程度である。50HVである。160℃焼戻し材の表層と母相はともにマルテンサイト組織である。組織から窒素硬化層の境界は特定できない。

各焼戻し温度材の断面硬度を見ると、160~550℃の焼戻し材の断面硬度は表面から0.8mm程度まで徐々に低下し、850℃の焼鈍材の断面硬度は表面から基板まで220HV程度である。ほとんど変化しない。

400℃の焼戻し材と850℃の焼鈍材の断面の組織を観察したところ、850℃の焼鈍材の表面から0.8mmまで窒化物の析出が観察された。この窒化物は、焼鈍中にマルテンサイトがフェライトに変態する際に、NとCrが結合して析出した窒化物である。

窒素溶体化処理後、温度別の焼戻し材、焼入れ焼戻し材、窒素溶体化処理をしていない材のX線回折結果から、160~500℃の焼戻し材、焼戻し材にα(フェライト)、α'(マルテンサイト)、γ(オーステナイト)が存在する。500℃の焼戻し材にはαとα'がある。非窒素固溶化処理材と850℃焼鈍材にはα、α'、β-Cr2N、Cr23C6が存在する。

各焼戻し材の分極曲線から、160℃の焼戻し材と400℃の焼戻し材の孔食電位は、窒素溶液処理なし材と焼戻し材の孔食電位よりも高いことがわかる。また、焼戻し温度が高くなると、孔食電位は低下する。

SUS420J2およびSUS430の孔食電位の焼戻し温度による変化から、SUS420J2の窒素固溶処理材、160℃焼戻し材および400℃焼戻し材の耐食性は、非窒素固溶処理材および窒素固溶処理材よりも優れていることがわかった。焼戻し材。SUS420J2の焼戻し温度と孔食電位の関係の変化傾向はSUS430と同じであるが、各焼戻し温度における孔食電位値はSUS430より約0.15V低い。

Summary

SUS420J2材について、工業用真空熱処理炉を用いた窒素固溶化処理試験を実施し、以下の結論を得た。